矢又小次郎の言葉 #001
はじめに
サイバー攻撃に関するニュースでは、よく次のような表現を目にします。
「○○社は不正アクセスを受けたと発表しました。」
「システム障害をきっかけに攻撃が発覚しました。」
しかし、私はこの「発覚」という言葉に、以前から違和感を抱いていました。
まるで、その瞬間に攻撃が始まったかのように受け取られてしまうからです。
実際には、その時点で攻撃者は既に目的達成へ向けた工程の終盤にいることが少なくありません。
そこで私が辿り着いた言葉が、次の一文です。
「発覚とは、攻撃者と防御側の戦略が初めて交差する瞬間である。」
この言葉が生まれた背景
私はこれまで、ランサムウェア事件や政府系APTによるサイバー攻撃を数多く調査してきました。
その中で気付いたことがあります。
攻撃者は侵入したその日に身代金を要求するわけではありません。
まず、
- 初期侵入
- 権限の奪取
- 横展開
- システム構成の把握
- 情報資産の調査
- データの窃取
- バックアップの破壊
といった工程を、数日、数週間、時には数か月かけて進めます。
つまり、攻撃者の戦いは既に始まっています。
一方、防御側はどうでしょうか。
多くの場合、防御側が攻撃を認識するのは、
- システム障害
- 利用者からの問い合わせ
- 身代金要求
- リークサイトへの掲載
- 外部機関からの通報
など、何らかの異変が起きた後です。
この瞬間、初めて攻撃者と防御側が同じ戦場に立つことになります。
だから私は、
「発覚とは、攻撃者と防御側の戦略が初めて交差する瞬間である。」
と表現しています。
発覚は「始まり」ではない
サイバー攻撃を一本の時間軸で考えると、この考え方が理解しやすくなります。
初期侵入
↓
権限奪取
↓
横展開
↓
情報収集
↓
データ窃取
↓
攻撃準備
↓
システム障害・身代金要求
↓
発 覚
世の中から見えるのは、最後の「発覚」だけです。
しかし、攻撃者から見れば、それは長い作戦の終盤に過ぎません。
この視点を持つだけでも、ニュースの見え方は大きく変わります。
ネット探検ラボでは
ネット探検ラボでは、
「どのような攻撃だったのか。」
だけではなく、
「なぜ、その時点で発覚したのか。」
という視点を重視しています。
例えば、
- システム障害で発覚したのか。
- ランサムノートで発覚したのか。
- リークサイトへの掲載で発覚したのか。
- 外部機関からの通報だったのか。
- 利用者からの問い合わせだったのか。
発覚の経緯を分析することで、攻撃者がどの段階まで侵入していたのか。
防御側はどの時点まで気付かなかったのか。
そして、防御体制のどこに課題があったのか。
そこまで読み解けると考えています。
この視点が活かされた記事
この考え方は、これまでネット探検ラボで取り上げてきた多くの記事にも反映されています。
例えば、
いずれの記事でも、
「攻撃そのもの」だけではなく、
「どのような経緯で攻撃が顕在化したのか。」
という点を一つの分析軸として取り上げています。
読者へのメッセージ
語録とは、格言ではありません。
事件を調査し、
資料を読み、
攻撃者の行動を分析し、
その積み重ねの中から生まれた、一つの視点です。
サイバー攻撃は、目に見える瞬間だけを見ても、本質は理解できません。
見えない時間。
見えない準備。
見えない侵入。
そこへ目を向けることで、初めて事件全体の姿が見えてきます。
私はこれからも、「発覚のその先」にある構造を探り、防御側が学ぶべき教訓を、一つひとつ積み重ねていきたいと考えています。
矢又小次郎の言葉
発覚とは、攻撃者と防御側の戦略が初めて交差する瞬間である。
この言葉は、ネット探検ラボで取り上げる多くのサイバー事件を読み解くための、一つの分析の出発点です。



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