サイバー攻撃に強い社会を目指す、新たな国際的ルール作りが始まる
2026年7月15日、米国サイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁(CISA)、米国家安全保障局(NSA)、英国国家サイバーセキュリティセンター(NCSC-UK)、オランダ国家サイバーセキュリティセンター(NCSC-NL)、そして日本のJPCERT/CCは共同で、一つのガイダンスを公開しました。
そのタイトルは…
「Establishing a Coordinated Vulnerability Disclosure Program to Work With Security Researchers」
です。
一見すると、企業向けに脆弱性開示制度(Coordinated Vulnerability Disclosure:CVD)の構築方法を解説した技術文書のようにも見えます。
しかし、その内容を読み進めると、本ガイダンスが目指しているものは、単なる技術論ではありません。
“企業、セキュリティ研究者、そして政府機関が共通のルールの下で協力し、社会全体のサイバーセキュリティを向上させるための「国際的な行動規範」”であることが見えてきます。
このガイダンスは「脆弱性を探す方法」を説明した文書ではない
サイバーセキュリティの世界では、「脆弱性」という言葉を耳にする機会が増えました。
しかし、本ガイダンスは、「どのように脆弱性を発見するのか」を説明したものではありません。
ペネトレーションテストやファジング、静的解析、動的解析といった脆弱性探索技術について詳しく解説しているわけではなく…
既に発見された脆弱性を、企業がどのように受け止め、評価し、修正し、利用者へ情報提供するか
という運用全体を整理した文書なのです。
つまり、このガイダンスが目指しているのは、脆弱性対応の「ルール作り」と「規範作り」と言えるでしょう。
「脆弱性」はソフトウェアだけではない
本ガイダンスでは、脆弱性を
ソフトウェア、ハードウェア、または設定(Configuration)の弱点
として定義しています。
対象となるのは…
- ソフトウェアの不具合
- ハードウェア設計上の問題
- 設定ミス
- 製品に存在する様々なセキュリティ上の弱点
…など幅広いものです。
ゼロデイ脆弱性という言葉は本文には登場しませんが、公開前の脆弱性も当然この運用プロセスの対象になります。
重要なのは、「発見された脆弱性を社会全体でどのように扱うか」という考え方です。
セキュリティ研究者は「協力者」である
今回のガイダンスを読んで最も印象的だったのは…
セキュリティ研究者を”敵”ではなく”協力者”として位置付けていることです。
企業は脆弱性報告窓口を整備し、
研究者は一定のルールを守って検証を行い、
企業は迅速に評価・修正し、
必要に応じてCVEを発行し、
利用者へ情報公開する。
その一連の流れを標準化しようとしています。
この仕組みが機能すれば、脆弱性は犯罪者に悪用される前に修正される可能性が高まり、社会全体の安全性も向上していクと考えます。
「レジリエンスの高い社会」を実現するために
ネット探検ラボではこれまで、ランサムウェア、情報窃取、初期アクセスブローカー(IAB)、
リークサイト分析など、攻撃者側の活動を数多く取り上げてきました。
しかし、攻撃を知ることだけでは、サイバー攻撃に強い社会は実現できません。
本当に重要なのは、攻撃される前に脆弱性を修正し、同じ被害を繰り返さない社会を構築することです。
そのためには、企業、セキュリティ研究者、政府機関、そして利用者が、共通のルールの下で協力し合う必要があります。
今回公開されたガイダンスは、まさにそのための「共通言語」を世界に提示した文書だと感じました。
サイバー政策を読み解くヒントにもなる
このガイダンスは、単なる企業向け運用マニュアルではありません。
今後…
- Vulnerability Disclosure Policy(VDP)
- Security.txt
- Safe Harbor
- PSIRT(Product Security Incident Response Team)
- CVE運用
…などが世界的に普及していく流れの背景には、今回のような国際的な共通理念があると考えられます。
言い換えれば、将来のサイバーセキュリティ政策を先読みする上でも、非常に興味深い資料であると考えます。
おわりに
今回の共同ガイダンスには、
日本のJPCERT/CCも共同執筆機関として名を連ねています。
サイバー攻撃は国境を越えて広がります。
だからこそ、その対策も一国だけではなく、国際的な協力と共通ルールが重要になります。
ネット探検ラボでは、こうした国際的なガイダンスを丁寧に読み解きながら、その背景にある思想や、今後のサイバー政策への影響についても継続して考察していきたいと思います。
📚 参考資料
本記事は、CISA、NSA、JPCERT/CC、NCSC-UK、NCSC-NLが共同で公開したガイダンスをもとに作成しています。
参考資料として日本語訳も掲載していますが、翻訳は理解を補助することを目的とした参考情報です。正式な内容や正確な解釈が必要な場合は、必ず原文(英語版)をご確認ください。
ネット探検ラボでは、可能な限り原文に忠実な翻訳を心掛けていますが、専門用語や表現の解釈には差異が生じる場合があります。そのため、本ガイダンスの正式な内容は英語版が優先されます。



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