ここでも「発覚の経緯」に着目することになります。
ここでも、前回の「自衛隊USB事件と名鉄協商サイバー攻撃の共通項」で述べたように「発覚の経緯」に着目せざるを得ません。
そこで、改めて下記の時系列を確認してほしいと思います。
自衛隊USB事案・時系列
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2024年1月 | 能登半島地震の災害派遣に関連し、問題のUSBが石川県から陸自中部方面総監部に渡った物品として内部文書に記録。ただし、石川県側は調達・購入記録を確認できないと説明。 |
| 2024年3月ごろ | 陸上自衛隊中部方面総監部の機密系端末で、問題のUSBの使用が始まったとされる。 |
| 2024年3月〜2025年2月 | 約1年間、感染USBが機密システム端末に接続され続けた。報道では、総監部内のPC約480台のうち50台以上に接続されたとされる。 |
| 2025年2月 | 隊員がPCの動作遅延に気づき、USBを調査。マルウェアが含まれていることを検知。 |
| 検知後 | 陸自サイバー防護隊がUSBを分析。中国製の偽装USBで、表示は1TBだが実容量は約240GB、内部に安価なmicroSDカードが使われていたと報道。 |
| 分析結果 | マルウェアは、中国系ハッカー集団が過去に使用したタイプと分析されたと報道。 |
| 2025年2月〜2026年6月 | 防衛省・陸自は事案を公表せず。政府側は、情報窃取やシステム影響は確認されていないとの立場。 |
| 2026年6月25日 | 日本経済新聞が内部文書を基に報道。防衛省・陸上幕僚監部も、2025年2月にマルウェア検知事例があったことを認めたとされる。 |
| 2026年7月上旬予定 | 総務省が全国自治体に対し、USBメモリー等の利用実態調査を準備。自治体のサイバー攻撃リスクを一斉点検する流れへ。 |
お気付きの方もおられるかと思いますが…
自衛隊は公表していなかった事案なんですね。
それが突然、今年になってから6月25日に日経新聞が報じることとなったわけです。
「発覚の経緯」が「日経新聞社の報道」もよるものであることの意味
そうなんです。
日経新聞社は、入手した内部文書に基づいて報道をしているのです。
普通に考えて…
うん?何かがおかしいと思いませんか?
日経新聞社はどうやって陸上自衛隊の内部文書を入手したのでしょうか?
中国系マルウエアが〜と騒ぐ以前に、陸自のセキュリティーは、本当に大丈夫なの?という疑問が湧いてきてしまいます。
「発覚の経緯」からの深掘り作業がインシデント理解の近道
繰り返しになりますが、前回の「自衛隊USB事件と名鉄協商サイバー攻撃の共通項」で述べたように、私は、「発覚の経緯」をよく知ることこそが、インシデントへの理解と、攻撃者のオペレーションに隠された攻撃者側の都合にまで及ぶ世界を、攻撃者目線で洞察していくキッカケになると信じています。
この言葉をそのまま適用すると、少々語弊が生じてしまう恐れがあるかも知れませんが、敢えてこのまま進めていきたいと思います。
💡ピントきたニュースがこれだった。
それは、2023年に米紙が報じたものでした。
2020年に中国のサイバー攻撃者が日本の防衛関連ネットワークへ侵入し、これを把握した米国側は、当時のNSA長官兼米サイバー軍司令官だったPaul Nakasone(ポール・ナカソネ大将)と、当時の米国家安全保障会議の高官だったMatthew Pottingerが急きょ来日し、日本政府首脳にも警告を行ったと報じられた事案です。
この出来事は、日本のサイバーセキュリティ政策にも大きな影響を与えたと考えられています。
余談でもありますが、確か、米国でこれを報じたのがワシントンの意向を最も反映する機会が多いと言われるワシントン・ポスト紙であり、それを日本で独占的に報じたのが日経新聞社でした。
ここでも「発覚の経緯」を深堀することで多くの洞察を得ることに繋がっていくと改めて感心してしまうのです。
頭の体操をする価値
「発覚の経緯」から多くの洞察を得た上で、安直に決めつけたり邪推し非難するまでもなく、或いは陰謀論へ傾斜するでもなく、あくまで純粋に仮説と検証を試みるか?そこまでせずとも頭の体操をする程度でも良いと思います。考察を重ねていくとある程度の姿が実態として浮かんで見えてくるように思うのです。
そうなんです、サイバー領域での活動に通じるものがあるように思うのです。
スクリーンの向こう側、地球の向こう側で繋がっている存在へ思いを馳せるのと同じような感覚です。
この事案を通して見えてきた姿がこれです。
「なぜ、日本の安全保障に関わるサイバー事案は、当局の発表よりも先に報道機関の独自取材で明らかになることがあるのか。」
これは特定の陰謀論ではなく、情報公開・公益性・調査報道の役割という観点から考察できるテーマであると思います。
今回の陸自USB事件の「発覚の経緯」にもう一度目を向けてほしいと思います。
- 2025年2月 自衛隊がマルウェアを検知
- 約1年4か月 公表されず
- 2026年6月25日 日経新聞が内部文書を基に報道
- 防衛省が事実を認める
- 総務省が全国調査を開始
この流れを見ると、社会が動いたきっかけは「事案の発生」ではなく、日経新聞による報道だったことは明々白々であると思います。
民間のサイバーセキュリティー分野でも同じことが言えると思うのです。私は、ランサムウエアを用いたサイバー攻撃の被害を受けた、多くの企業の惨状を傍から観察させて頂いてきました。
これら企業や団体は、被害者であると同時に取引先や顧客への責任も負っています。
ここでも同じことが問われているように思うのです。
社会で教訓を共有し未来へ活かすという社会システムが求められていると思います。
その積み重ねや繰り返しが、日本のサイバー領域や社会そのもののレジリエンスを高めて行くと信じています。そして、その全てが私達の生活に還って来るように思うのです。
●最後に
やはり「発覚の経緯」から洞察され得る教訓は、極めて重要なものだと思います。個々人から企業・団体、そして公の組織から社会全体のレジリエンスを高める為の肥やしになるんだろうなと思います。



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