― FAQという名の「犯罪マニュアル」と「宣言文」 ―
📅 最終更新:2026年8月1日
はじめに
最近、新たなランサムウェアブランド「Gammax」の活動が確認されました。
通常、このような新しいランサムウェアグループが現れると、被害企業や攻撃手法、リークサイトの内容などが注目されます。
しかし、ネット探検ラボが最初に注目したのは、それらではありません。
Gammaxがリークサイト上で公開している“FAQ(Frequently Asked Questions)”です。

一見すると企業向けの「よくある質問」に見えますが、その内容を一つ一つ読み進めていくと、そこには単なる説明文ではない、一つの思想が見えてきます。
興味深いことに、GammaxはFAQの中で“「私たちは2020年から活動している」”と自ら主張しています。
もしこの主張が事実であれば、私たちが今見ているのは「新しい組織」の誕生ではなく、「新しいブランド」の登場なのかもしれません。
もちろん、現時点でその主張を裏付ける客観的な証拠は確認されておらず、本稿でもその点を断定することはありません。
しかし、このFAQという一次資料を読み解いていくと、運営思想や交渉方針、企業との向き合い方には、非常に興味深い特徴が見えてきます。
さらにネット探検ラボでは、FAQで繰り返される「Business」「Reputation」「Branding」「Trust」といった表現に着目しました。
これらは、過去に活動していたランサムウェアグループ「LockBit」が重視していた考え方を想起させる部分があります。
もっとも、現時点でGammaxとLockBit、あるいはLockBitSupp(ドミトリー・ホロシェフ)との組織的・人的な関係を示す証拠は確認されていません。
本稿では、そのような類似点を“「観察結果」”として整理し、断定ではなく検証という立場から考察を進めます。
本記事は、攻撃者の主張を事実として紹介するものではありません。
Gammax自身が公開したFAQという一次資料を基に、その言葉、論理、交渉戦略、そして運営思想を読み解き、防御側が何を学ぶべきかを考察することを目的としています。
「私たちはプロフェッショナルだ」──Gammaxが最初に伝えたかったこと
FAQの冒頭で、Gammaxは自らを次のように紹介しています。
「私たちは2020年から活動する、経験豊富なエリートのプライベートグループである。」
この自己紹介は非常に興味深い内容でした。
通常、新たなランサムウェアグループは、自らの活動開始時期を積極的にアピールすることは多くありません。
しかしGammaxは、あえて「2020年から活動している」と明記しています。
この主張が事実かどうかは現時点では確認できません。
しかし、この一文は単なる自己紹介ではなく、
「経験の浅い新参者ではない」
という印象を企業へ与えることを意図したメッセージとも読み取れます。
さらに彼らは、自らを「エリート」「経験豊富」と表現し、Professionalであることを繰り返し強調しています。
つまりGammaxが最初に伝えようとしているのは、
「私たちは信用に値する交渉相手である。」
というブランドイメージなのです。
金が目的であり、政治ではない
GammaxはFAQの中で、
「私たちの目的は金であり、世界をより安全にすることだ。」
と述べています。
さらに別のFAQでは、
「私たちは政治組織でも、テロ組織でも、国家の支援を受けた組織でもない。金を求めているだけだ。」
とも説明しています。
これら二つの回答は、Gammaxが自らを政治的な集団ではなく、利益を目的とする組織として位置付けようとしていることを示しています。
ここでネット探検ラボが興味を持ったのは、この“「政治ではなく、ビジネスである」という自己定義”です。
実は、「政治ではなくビジネスである」という自己定義は、全盛期のLockBitや、LockBitSuppとして知られるドミトリー・ホロシェフの公開発言にも繰り返し見られた考え方です。
組織の「評判(Reputation)」や「ブランド(Brand)」を維持し、「信用」を失わないことが継続的な利益につながるという発想は、LockBitの交渉戦略を特徴付ける要素の一つでした。
LockBitSuppは、組織の評判(Reputation)やブランド(Brand)を重視し、自らを“「ビジネスとして運営する組織」”であるかのように語る場面が少なくありませんでした。
GammaxのFAQ全体を分析した結果、ネット探検ラボが最初に着目したのは、この運営思想の共通性でした。
もちろん、現時点でGammaxとLockBit、あるいはLockBitSuppとの間に組織的・人的な関係を示す証拠は確認されていません。
しかし…
- 「政治ではなく金銭目的である」
- 「評判を重視する」
- 「ブランドを守る」
- 「交渉相手からの信用を重視する」
…という一連の考え方には、少なくとも比較・検証する価値がある共通点が見られます。
ネット探検ラボでは、今後LockBitSuppが過去に公開した英文やインタビュー、フォーラム投稿なども比較対象とし、語彙や文章構成、運営思想にどのような共通点・相違点が見られるのか、継続的に検証していく予定です。
「Business」という言葉が何度も登場する理由
GammaxのFAQを読み進めると、一つ気付くことがあります。
それは、「Business(ビジネス)」という考え方が、FAQ全体を貫くキーワードになっていることです。
彼らは繰り返し…
- Reputation(評判)
- Branding(ブランド)
- Trust(信用)
- Guarantee(保証)
…といった言葉を用いています。
これらは一般企業であれば、顧客との信頼関係を築くために使われる言葉です。
しかしGammaxでは、その対象が被害企業となっています。
つまり彼らは、身代金交渉そのものを一つの「Business(取引)」として捉えているように見えます。
「信用」を維持することが利益につながる
FAQでは、
「支払えば復号する。」
「支払った企業は再び攻撃しない。」
「取得したデータは削除する。」
「脆弱性まで報告する。」
といった内容が並んでいます。
もちろん、これらはGammax自身の主張であり、その実行を保証するものではありません。
しかし重要なのは…
彼らが「信用できる交渉相手」であることを、繰り返し企業へ訴えているという点です。
これは単なるFAQではなく、「信用を商品として提供するための説明書」とも受け取ることができます。
なぜ「信用」が必要なのか
ランサムウェア攻撃では、企業が身代金を支払うかどうかは、最終的に攻撃者を「信用するかどうか」に大きく左右されます。
もし…
「支払っても復号されない」
「支払っても情報を公開される」
…という評判が広がれば、
今後の被害企業も支払いを拒否する可能性が高くなります。
GammaxがFAQの中で…
Reputation(評判)
Branding(ブランド)
Trust(信用)
…を何度も強調している背景には、
「信用を失えば、将来の利益も失う」という考え方があるのかもしれません。
ネット探検ラボの考察
ここで興味深いのは、Gammaxが「技術力」ではなく、「信用」を前面に押し出していることです。
FAQでは暗号化アルゴリズムやマルウェアの特徴について語る場面はほとんどありません。
その代わり、企業との交渉、支払い後の対応、そして自らの評判について、多くの文章が割かれています。
このことからも、Gammaxが最も重視しているのは、「攻撃そのもの」ではなく、「交渉を成立させること」なのではないかとネット探検ラボでは考えています。
「Trust(信用)」はどのように作られるのか
Businessという考え方を掲げる以上、Gammaxにとって最も重要なのは“「信用(Trust)」”です。
企業は身代金を支払うまで…
「本当に復号されるのか。」
「データは削除されるのか。」
「また攻撃されるのではないか。」
…という様々な疑問を抱えています。
GammaxのFAQを見ると、その一つ一つへ答えるような構成になっていました。
例えば…
「支払い後は、すべてのファイルを復号する。」
「取得したデータは安全に削除する義務がある。」
「発見した脆弱性やセキュリティホールについて助言を提供する。」
「これらすべての工程について証拠を提示する。」
…と説明しています。
もちろん、これらはGammax自身の主張であり、その内容が事実であることを意味するものではありません。
しかし、FAQ全体から読み取れるのは…
「信用できる交渉相手」というブランドを企業へ印象付けようとする強い意図です。
「保証」という言葉が繰り返される理由
FAQでは、「Guarantee(保証)」という考え方も何度も登場します。
例えば、企業から…
「支払い後もデータを保持し続けるのではないか。」
という質問に対し、Gammaxは…
「私たちに敵意はない。」
「目的は金だけだ。」
「支払い後に企業を破壊する理由はない。」
と説明しています。
ここで興味深いのは、質問そのものには直接答えていないという点です。
企業が知りたいのは、「データを削除する保証があるのか」ということです。
しかしGammaxは…
「敵意はない」
「金銭が目的だ。」
…という説明へ話題を移しています。
これは、具体的な保証よりも、
「信用できる組織である」という印象を優先しているようにも読み取れます。
「証拠」まで用意すると説明する理由
GammaxはFAQの中で、さらに興味深い説明をしています。
「必要であれば、取得したファイルツリーを証拠として提示する。」
さらに、支払い後には、
「すべての工程について証拠を提示する。」
とも説明しています。
ここでも共通しているのは、Proof(証拠)という考え方です。
単に「信用してください。」と言うだけではなく、「証拠も提示する」と説明することで、企業側の不安を取り除こうとしているように見えます。
FAQから見えてきた交渉戦略
ここまでFAQを分析すると、Gammaxの交渉は、単なる脅迫だけでは成立していないことが分かります。
彼らが目指しているのは、恐怖だけで企業を支配することではなく、恐怖と信用を組み合わせた交渉です。
例えば、期限を過ぎればデータを公開すると警告する一方で、復号・データ削除・脆弱性の通知・改善提案・証拠の提示まで約束しています。
もちろん、これらはすべて攻撃者自身の主張であり、その履行を保証するものではありません。
しかし、FAQ全体を通して読み取れるのは、企業へ「支払う理由」を与えようとする交渉戦略です。
ネット探検ラボでは、この点こそがGammaxのFAQ最大の特徴であると考えています。
全盛期のLockBitを想起させる運営思想
ここまでGammaxが公開したFAQを一つひとつ読み解いてきました。
その中で、ネット探検ラボが最も興味を持ったのは、組織の運営思想です。
GammaxはFAQの中で繰り返し、
- Business(ビジネス)
- Reputation(評判)
- Branding(ブランド)
- Trust(信用)
- Guarantee(保証)
といった言葉を用いています。
これらは一般企業であれば、顧客との信頼関係を築くために使われる言葉です。
しかしGammaxでは、その対象が被害企業となっています。
つまり彼らは、身代金交渉そのものを「Business(取引)」として成立させようとしているように見えます。
ネット探検ラボがFAQ全体を分析した結果、最も注目したのは、この運営思想でした。
全盛期のLockBitにも見られた「Business」という発想
実は、この「政治ではなくビジネスである」という自己定義は、全盛期のLockBitや、LockBitSuppとして知られるドミトリー・ホロシェフの公開発言でも繰り返し確認されてきた考え方です。
LockBitは、自らを単なる犯罪組織としてではなく、“「利益を追求する組織」”として語ることが少なくありませんでした。
また、組織の“評判(Reputation)やブランド(Brand)”を維持することが、継続的な利益につながるという考え方もたびたび示されています。
一方、GammaxもFAQの中で、
- Reputation
- Branding
- Trust
- Business Rules
を繰り返し用い、自らを「信用できる交渉相手」であるかのように位置付けています。
この点は、単なる偶然では片付けられないほど興味深い共通点と言えるでしょう。
共通しているのは「技術」ではなく「思想」
ここで重要なのは、ネット探検ラボが比較しているのはマルウェアの技術的特徴ではないという点です。
今回比較対象としているのは、
- 自らをどのように定義しているのか。
- 企業へどのような印象を与えようとしているのか。
- 身代金交渉をどのように成立させようとしているのか。
という、組織の運営思想です。
FAQ全体を通して見ると、Gammaxは「恐怖」だけで企業を従わせようとしているのではありません。
「信用」「保証」「評判」「ブランド」といった概念を前面に押し出し、企業に「支払う理由」を与えようとしています。
この発想は、全盛期のLockBitが対外的に示していた考え方を想起させる部分があります。
現時点で言えること、言えないこと
もちろん、現時点でGammaxとLockBit、あるいはLockBitSuppとの間に、組織的・人的な関係を示す証拠は確認されていません。
したがって、本稿でそのような関係を断定することはできません。
しかし一方で、
- 「政治ではなく利益を目的とする。」
- 「評判を重視する。」
- 「ブランドを守る。」
- 「信用できる交渉相手であることを強調する。」
という一連の考え方には、比較・検証する価値がある共通点が複数見られました。
ネット探検ラボでは今後、LockBitSuppが過去に公開した英文やフォーラム投稿、交渉メッセージなども比較対象とし、語彙や文章構成、さらには英文の特徴についても継続的に検証していきたいと考えています。
OSINTにおいて重要なのは、「似ているから同じだ」と結論を急ぐことではありません。公開された一次資料を積み重ね、その言葉、思想、行動、技術的特徴を一つひとつ比較・検証しながら評価を更新していくことです。GammaxのFAQは、その出発点となる貴重な一次資料であり、本稿はその第一回の分析記録となります。



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